夜間頻尿の治療

異常を知るために正常を見ていきましょう。

【排尿の生理】
心が腎に陽気を降ろします。
これを相火とします。
相火は腎に降りて命門となります。
命門は腎間の陽気として三焦の元気を発動します。
三焦の元気は煙が立ちこもるように昇っていきますが、脾の昇清機能と肝の疏泄機能が手伝って津液を五臓
の最上位にある肺に輸送します。
故に肺を水の上限とします。
そして肺の粛降機能によって膀胱へと降りていき膀胱の気化機能を待って排尿されます。

太陽が海面を温め蒸発して雨雲ができ雨が降るのと同じです。
太陽は心です。
海面は腎です。
雨雲は肺です。

自然界における地温によって海水が温められ蒸発して空に雲を形成するから雨を降らすことができるように、人体においても下焦の陽気が上に昇るから降り注ぐことができるのです。
これが飲食物から尿が作られ排泄に至る生理です。

【排尿異常の病因病理】
ですから、おしっこがでないのは陽気が昇らないからです。
中世の名医岡本一抱の症例で、尿閉で苦しんでいる患者を治せない医師に「あなたは引いているから治せないのです。挙げるべきです」と言って附子を使って見事に治しています。
逆におしっこに頻繁にいきたくなるのは陽気が昇りすぎるからです。
だから気化の盛んな小児はよくおしっこをするのです。これは生理的な現象です。
以上の基本を押さえておくといかようにでも対応できます。

【夜間頻尿の病因病理】
夜になると日中活動するために体表に出てきていた陽気は内へと潜みます。
そして目からも陽気が尽きて就寝します。
陽気とはヒートアップ、陰気とはクールダウンと考えてください。
陽気が尽きて陰気が旺盛になるから眠れ、夜明けで陰気が尽きて朝睛明に陽気が出てくるから目覚めることができるのです。
余談ですが、これが睡眠の生理です。

話を戻して、夜内に陽気が帰ってきますが、この時元々下焦に陽気が多いとさらに陽気過剰となって命門が発動します。
陽気が昇発し肺の水道を通じさせてしまいます。
結果、膀胱の気化が活発になります。
だから夜中トイレに起きてしまうのです。
元々下焦に病的に陽気が多いのは気滞があったり湿痰があったりして緊張軋轢摩擦→火化して腎水が減っているからで
す。
下焦における生理的な陽気を腎間の陽気とします。
下焦における病的な陽気を腎間の“動”気とします。
動気だから命門に玉座しないで上に昇るのです。

【夜間頻尿の治療】
以上の病因病理を鑑みて、肺虚証で治療します。
それも右の肺を補います。
下焦の鬱熱を冷ましてクールダウンさせる必要があるからです。
ここで適応側の重要性が出てきます。
右手は気を押し下げます。
左足は気を引き下げます。
右足は気を押し上げます。
左手は気を引き上げます。
この〈素問・陰陽応象大論〉の奥義を活用すると、肺虚証であれば自ずと右の肺経を使うことになります。
クールダウンさせるのなら陰中の太陰である腎虚で治療すれば?という発想もありますが、下焦の鬱熱ですから膀胱も腎も実しているので腎を補うと益々命門が活発になって治らないということになります。

また違う側面から論じると、内に陽気が潜めば表の陽気が不足します。
陽虚外寒するわけです。
〈霊枢・五癃津液別篇〉に「~温暖な気候の時は汗腺が開いて汗となり、寒涼な気候の時は汗腺が閉じるので尿と陽気となる~」とあるように、外が冷えると内に陽気が多くなり尿として排泄しようとします。
外は冷え内には熱がこもり、陽虚=陰実という病理状態が展開され、これが夜間頻尿の病因病理であり、その治療は肺を補って体表に気を宣発して温め、裏では下焦に気を粛降して腎膀胱の鬱熱を冷ますようにします。

ただし、小児は気化が旺盛ですから生理的にトイレによく行き、妊婦の頻尿は胎児が下焦に宿っているので命門が活発にならざるをえないので、これもまた余程酷くない限りは治療の必要はありません。
そしてこれはあくまで夜間頻尿に限っての病因病理と治療法です。

標治法としては、中極に上向きに皮内鍼を止めその上から知熱灸なら3~5壮無熱灸なら6~10壮ドライヤー灸なら3~5壮します。
あるいは右の列缺を巧みに使うとよいでしょう。

ONE

鍼灸にはあらゆる流派や様式が在ります。 この多様性が日本鍼灸の優秀性のひとつだと感じています。 各流派に優劣は在りません。 それぞれに素晴らしい学術があり、互いに切磋琢磨する間柄です。 流派は違えど、患者を病苦から救うという同じ使命を持った鍼灸師に違いはありません。 元々1つです。 互いを認め高めあい、上工に成れるように、願いを込めてこの名前を付けました。 どうぞ、よろしくお願いします。