経絡治療からみた糖尿病の治療と病因病理

はじめに
糖尿病に対して東洋医学にも出来ることがたくさんあり、現代医学と併用すべきです。
主症状である多飲・多食・多尿・体重減少・疲労感などは、正常でなくなった機能を修復することによって良くなります。
東洋医学は正常でなくなった機能を修復し体を元気にするのが得意です。
糖尿病の分析
  • 弁病
糖尿病は、古代の中国では消渇、消中、熱中などと呼ばれました。
  • 上消
主症状は多飲です。
  • 中消
主症状は多食です。
  • 下消
主症状は多尿です。
  • 八綱
表裏は裏です。
寒熱は熱です。
虚実は共にあります。
陰陽は陽亢の病症が全面に出てきますがその本体は陰虚です。

  • 病邪
燥と熱。
本体は肝鬱です。

  • 気血津液
圧倒的な津液の不足があります。
その本体は気滞です。
気滞→湿痰→瘀血→邪熱→臓腑経絡を焼き払います。
その結果、津液不足に至ります。
亡津で透析になります。

  • 臓腑経絡
上消は肺熱、中消は脾熱、下消は腎熱ですが、多飲は肺、多尿は腎、多食・体重減少・疲労感は脾の変動ということで、病症から考えると、脾が中心となるようです。

結論から言うと糖尿病は脾の変動です。
つまり脾に虚実が発生しているということです。
何事も「変」を知るためには「常」を知っておかなければなりません。
異常を知るために正常を見ていきましょう。
脾臓の生理
脾の働きを一言で表すと、「意智」に集約されます。
意智とは脾臓に宿る神気ですが、思考して分別することです。
脾は胃に納められた飲食物を、体にとって必要なもの「清」と、そうでないもの「濁」に仕分けます。
「清濁泌別」とします。
清は栄養分・水分であり、後に気血津液として肺より、経脈及び経絡系統を通じて、全身余すところなく巡り、細胞・組織・器官・臓腑経絡・四肢・百骸を養い潤し活動力に変わります。
一方、濁は粕白いわゆるカスであり、大小便として体外に排泄されます。

思考なくして、体にとって必要か否かを分別することはできません。
人体にこのような脾臓という清濁泌別の働きがあることを、古代の中国人は大自然を観察することによって見いだしました。

脾は五行では「土」に属します。
脾土というくらいですから、脾には土の働きがあります。

土は、雨水などを染み込ませ一定期間、“保水”する力があります。
土は触ると湿り気があることからも分かります。
そうして濁りを濾しとり、清水を地下水として蓄え、必要に応じて湧水を地上に押し上げ、それが山々から下々へと流れ下り、方々から集まって河川を作り、海となります。

大自然の摂理を大宇宙とします。
大宇宙の縮図が小宇宙です。
小宇宙とは人体です。
自然現象は人体の生理現象でもあります。

地下水を含んだ大地は脾です。
流れ着く海は腎です。
そして、山や上流から河川を経て海までの水路は経脈及び経絡系統です。
もちもん水路を流れる湧水、山水、川の水は気血津液であり、後天の原気や三焦の原気です。

自然現象と脾臓の生理を照らし合わせてみましょう。

▶脾胃で消化吸収され、抽出されたエッセンスである気血津液を、肺に「昇清」します。
⏩雨水から濁りを濾しとった清水を地下水として保水し、必要に応じて地上に湧水を押し上げる自然現象と類似します。

▶五臓で最上に在る肺に上げられた気血津液は、経脈を含む経絡系統によって網の目のように余すところなく体の隅々まで巡ります。
これを「運化作用」とします。
現代医学的には毛細血管による毛細現象です。
最終的に原気として腎に蔵されます。
⏩山や上流から河川を経て海を満たすまでの水路の作用と類似します。
脾臓の病理
これらは脾の正常な姿です。
例えば、土の保水機能が失われたとしましょう。
飲んだ水を脾胃に留めることができずに膀胱に直行してすぐにおしっこに行きたくなります→多尿です。

ドンドンおしっこに行くのでまた直ぐに喉が渇きます→多飲です。

消渇病の下消と上消です。
ではなぜ保水機能が失われたのでしょうか?

それは湿り気のある土ではなく乾いた砂になってしまったからです。
砂は保水することができません。
水を垂らすとあっという間に下に抜けます。
土が保水して湿り気があるように、脾胃には一定量の津液がストックされています。
土が砂になるとは、脾の津液が乾いた状態です。

脾の津液が乾くということは脾胃に熱を持ちます。
津液とは陰性なものです。
陰には、“冷やし・潤し・引き締める”働きがありますが、津液が不足すると陰虚になり、冷やせないので熱をもち、潤せないので乾き病的な陽気が多くなります。
これを虚火とか実火としますが、この火邪が引き締められずに上昇し口渇します。
飲んでも脾の保水機能が失われているので胃に留めることができずに下に駄々漏れして直ぐにおしっこに行きたくなります。
また、脾胃でも熱が多くなり食欲が亢進し、食べても直ぐに空腹になり幾らでも食べてしまいます→多食です。

さらには、水分だけでなく栄養分も駄々漏れてしまうので肌肉・四肢に栄養が巡らず体がドンドンやせてきて疲労します→体重減少・疲労感です

糖尿病は脾の変動で発症します。
糖尿病の病因病理
ここからがメインです。
ではなぜ、土が砂になるほどまでに脾の津液が乾いてしまったのでしょうか?
脾の津液を干上がらせた黒幕は一体誰なんでしょうか?

肝鬱=ストレスです。

ストレスを感受すると気が滞ります。
気滞です。
気滞は緊張状態の持続です。
これが続くとどうなるか?
体現してみましょう。
拳を力一杯握りしめてください。
意図的に作り出した緊張状態です。
力を込めれば込めるほど手のひらの中は内圧が亢進し熱くなります。
熱です。
緊張状態が続くと熱が発生します。
火化します。
熱は本来体を温める恵みですが、気滞により病的に発生した熱なのでこれを、「邪熱」とします。
この邪熱が燃え盛って脾の津液を乾かしてしまうのです。

脾に襲いかかるには理由があります。
それは同じ中焦に肝があるからです。
ストレスは肝に関与し集中します。
肝が滞ることで気が滞ります。
ですから先ず、肝鬱があって気滞し、邪熱を生み、この肝火が同じ中焦にある脾に横逆します。
そうして、中焦脾胃を舞台に中消が起こり、上・下焦に波及して上消・下消へと進行していくのが消渇病すなわち糖尿病の病因病理です。

また別の角度から、よく暴飲暴食がよくないと言われていますが、これは肝鬱があるから暴飲暴食をするのです。
つまりストレスの捌け口が食に逃げただけのことです。
肝鬱→脾に横逆→脾陰虚あるいは脾実→胃熱→食欲行進となります。
食事制限をしても肝鬱が解消されない限り中消が治まることはありません。

ストレスです。
肝鬱気滞瘀血火化です。
合併症の病因病理
糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症の三大症状に加え、動脈硬化(脳卒中・心臓病)が恐怖の合併症です。
生理の項で説明したように、脾は気血を全身に巡らせて、四肢や肌肉を壮健にしています。
脾が失調すると行き渡らなくなり、神経障害や細い血管がつまりやすくなります。
その結果、合併症が起こります。

  • 糖尿病神経障害
糖尿病神経障害は、高血糖により、手足の神経に異常をきたし、足の先や裏、手の指に痛みやしびれなどの感覚異常があらわれる合併症です。
これは、脾の運化作用が失調したために、気血が末梢まで巡らず、通じなくなったからです。
これらは、手袋や靴下で覆われる部分に、“左右対称”にあらわれる特徴があります。
痛みが慢性化する場合や、進行して知覚が低下した結果、足潰瘍や足壊疽となる患者さんもいます。
やはり、気血による四肢の栄養ができないために傷口を修復することができず壊死するのです。

  • 糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、高血糖により、眼の網膜にある非常に細い血管がむしばまれていく合併症です。
進行してしまうと失明に至ります。
目の経脈及び経絡系統に気血が巡らないためです。

  • 糖尿病腎症
糖尿病腎症は、高血糖により、腎臓にある非常に細い血管がむしばまれていく合併症です。
やはり気血が巡らないためです。
進行すると、老廃物を尿として排泄する腎臓の機能が失われてしまうため、最終的に透析治療を要することになります。
これは津液が完全に干上がった状態です。
  • 動脈硬化(脳卒中・心臓病)
糖尿病は動脈硬化の原因となり、心臓病や脳卒中を引き起こします。
特に、食後の高血糖が動脈硬化を進行させることが知られています。
脾は気血を経脈及び経絡系統を通じて運化させますが、上手く行き渡らせることができているのは、血脈に強さを与えているから途中で漏れることなく巡らせることができるのです。
これを「統血作用」とします。
脾の失調は統血作用を弱らせ、血管から強さを奪い脆弱になります。
いわゆる動脈硬化です。
脆弱性か高まれば脳溢血や脳梗塞、心筋梗塞のリスクが高まります。
糖尿病の経絡治療
  • 本治法
中焦を潤し、状態に応じて上中下焦に波及した邪熱を冷ますことが本質治療になります。
脾の変動ですが、脾虚もあれば脾実もあるので脉証腹証をよく診て証を立てるべきです。
津液不足が主になりますので、補法が中心になります。
補って慎められない邪熱は波及した経絡をよく診極めて瀉法します。
経絡治療ではこれを本治法とします。

  1. 脾虚(肝または腎実)証
  2. 肺虚(心または肝実)証
  3. 肝虚脾実証
  4. 腎虚脾実証
  5. 脾肝相剋証
  6. 脾腎相剋証
  7. 肝脾相剋証
  8. 腎脾相剋証
  9. 肺肝相剋証
などです。
やっぱり脾実が多いです。

  • 標治法
十一椎下の脊中に上向きに皮内鍼、その傍ら三寸の左意舎に内上方に向けて皮内鍼を貼付し、その上から知熱灸を5~7壮施灸します。
皮内鍼は治療毎に貼り替えます。
糖尿病の各種数値を整えてくれる標治法です。
圧痛があれば然谷に知熱灸5~7壮も効果があります。
  • 補助療法
奇経治療がよく効きます。
基本は左公孫-左内関+左照海-右列缺です。
ただし、合併症やその他の愁訴に応じて変更します。
例えば、
✔脳血管障害があれば麻痺側の照海-健側の列缺に左公孫-左内関を加えます。
✔心臓病があれば内関-公孫の方がいい場合があります。
✔どういうわけか、五十肩や膝痛や坐骨神経痛など、筋や関節痛を訴える患者が多く、公孫-内関や内関ー公孫が、左太衝-左内関や左内関-左太衝、時に左通里-左公孫になるときがあります。
✔網膜症があれば、やはり目ということで、公孫-内関、内関-公孫よりも太衝-内関や内関-太衝の頻度が高くなります。
もちろん照海-列缺+公孫-内関or内関-公孫も目系に影響します。
✔内関の使い方がポイントになってきます。

奇経治療のいい所は本治法並みに全体を整えられる作用があり、また患者のセルフケアとしても有効です。

  • 養生法
ストレスを溜めないようにすることです。
暴飲暴食を控えろと言っても、肝鬱つまりストレスが減らないことには止められません。
ストレスの発散、これに尽きます。

また疲れると甘いものがほしくなります。
これは血虚を補おうとする体の防衛反応です。
漢方薬の世界では、血虚を直接補う生薬はないとされています。
なので、脾を動かして気血を製造するために甘味を取らそうとするのです。
疲労を避けるというのも大切な養生の1つです。

適度な運動を心がけてください。
中世の名医、岡本一抱の説です。
石臼があります。
上下の石臼が脾胃です。
石臼を回す取ってが四肢です。
取ってをよく回すと石臼で種や豆や籾殻をよく挽けるように、四肢をよく動かすと脾胃がよく働き消化がよくなります。
だから運動がいいとのことです。
一番負担なく続けられるのは散歩です。
先ずは毎朝30分歩きましょう!
症例
  • 症例①
☑患者 70代男性。
☑HbA1c 8.0
☑愁訴 脳梗塞後遺症による右半身麻痺と言語障害と計算障害。高血圧。眼底出血。
☑経絡腹診 腎肺虚、脾心実、肝平。
☑脉状診 浮、数、堅。
☑比較脉診 腎肺虚、脾心実、肝平。
☑証決定 腎虚脾実証。時に腎虚心実証。
☑適応側の判定 脳梗塞を再発させないため気を上げる側の右。
☑本治法 右復溜に補法。左陰陵泉(心実の時は大陵か郄門)に堅に応ずる補中の瀉法。右豊隆に枯に応ずる補中の瀉法。
☑補助療法
✅宮脇奇経治療 宮脇奇経腹診®より衝脉と陰蹻脉と診断。
左公孫-左内関+右照海-左列缺に金銀粒貼付。
☑標治法 脊中、左意舎に皮内鍼。
☑止め&セーブ鍼。
☑経過 HbA1c6.8、言語障害改善、血圧安定。現在継続治療中。

  • 症例②
☑患者 60代男性。
☑HbA1c 8.2
☑愁訴 メニエール。狭心症でニトロが放せない。
☑経絡腹診 肺脾虚、心肝実、腎平。
☑脉状診 沈、数、虚。
☑比較脉診 肺脾虚、心肝実、腎平。
☑証決定 肺虚証。
☑適応側の判定 病症に偏りなく男性であることから左。
☑本治法 左太淵、左太白に補法。
☑補助療法
✅宮脇奇経治療 宮脇奇経腹診®より衝脉と陽維脉と診断。
左公孫-左内関+右外関-左臨泣に金銀粒貼付。
☑標治法 脊中、左意舎に皮内鍼。
☑止め&セーブ鍼。
☑経過 HbA1c7.0~6.8を推移。メニエール軽減。現在継続治療中。

  • 症例③
☑患者 50代女性。
☑HbA1c 7.5
☑愁訴 左五十肩。冷え症。
☑経絡腹診 肝腎虚、肺脾実、心平。
☑脉状診 浮、数、虚。
☑比較脉診 肝腎虚、肺脾実、心平。
☑証決定 肝虚証。
☑適応側の判定 肩関節は患側の肝が多いので左。
☑本治法 左曲泉、左陰谷に補法。左豊隆に枯に応ずる補中の瀉法。
☑補助療法
✅宮脇奇経治療 宮脇奇経腹診®より内関-太衝と任脉と診断。
左内関-左太衝+右列缺-右照海に金銀粒貼付。
☑標治法 脊中、左意舎に皮内鍼。
☑止め&セーブ鍼。
☑経過 五十肩の可動域と冷え症が改善。現在継続治療中。
おわりに
主たる変動経絡の虚実を弁え補瀉調整し生命力を強化すれば、再び膵臓は甦ります。
動脈硬化も改善します。
何よりストレスに負けない体になります。
現代医学と並行して、東洋医学の真髄である生命力の強化に努めてください。
そうすることでお薬もよく効くようになります。

糖尿病に苦しむ患者さんを、癒し和らげ治し、できれば防いであげられるように、頭と体に汗をかき、心を尽くして工夫してください。

ONE

鍼灸にはあらゆる流派や様式が在ります。 この多様性が日本鍼灸の優秀性のひとつだと 感じています。 各流派に優劣は在りません。 それぞれに素晴らしい学術があり、 互いに切磋琢磨する間柄です。 流派は違えど、患者を病苦から救うという同じ使命を持った鍼灸師に違いはありません。 元々1つです。 互いを認め高めあい、上工に成れるように、 願いを込めてこの名前を付けました。 どうぞ、よろしくお願いします。