学生と経絡治療のお勉強④

応用鍼灸治療学Ⅴ(内科)の4回目は、証決定・治療法則を実習しました。
証とはなぜその経絡を治療する必要があるのかという治療の根拠(病因病理)です。
根拠(病因病理)に基づき治療すべき経絡と治療法を決定します。

肝虚証・心虚証・脾虚証・肺虚証・腎虚証など証には五種類ありますが、肝虚証とは肝の気または血が不足したのが原因で発病(筋膜腱の病、眼疾、子宮・前立腺などの陰器の病、爪の病、各種神経痛、自律神経系の病等々)しているので、肝の気または血の不足を補う治療をして治しなさいという治療法の指南とその根拠(病因病理)です。
他の証もこれに準じます。

証決定の手順

患者の訴える症状を解決するために、私たちが生きるために必要な5つの大切な働きのどれに問題があるのかを四診法を
駆使して情報を集め分析します。
最終的に脉診と腹診で段を下します。

脉証腹証共に、
①肝が最も虚、腎が次いで虚、肺が最も実、脾が次いで実、心が平であれば、肝虚証です。

②心が最も虚、肝が次いで虚、腎が最も実、肺が次いで虚、脾が平であれば、心虚証です。

③脾が最も虚、心が次いで虚、肝が最も実、腎が次いで実、肺が平であれば、脾虚証です。

④肺が最も虚、脾が次いで虚、心が最も実、肝が次いで実、腎が平であれば、肺虚証です。

⑤腎が最も虚、肺が次いで虚、脾が最も実、心が次いで実、肝が平であれば、腎虚証です。

治療法則

聖典『難経・六十九難』の治療法則「虚すればこの母を補え」に従い、

①肝虚証は曲泉と陰谷を補います。
②心虚証は大陵と太衝を補います。
③脾虚証は太白と大陵を補います。
④肺虚証は太淵と太白を補います。
⑤腎虚証は復溜と経渠を補います。

証が決定したら即座に治療すべき経絡と経穴が決まります。
これを診断即治療とします。
各証とも、数千年の臨床統計学からこの基本選穴で全体の70%をまかなえます。
ただし、証は合っているのに思うような効果があがらないものには、患者の病体に合わせて難経六十八難の病症選穴より選穴します。
これが残りの30%です。

適応側

肝虚証と決まれば、肝経の曲泉と腎経の陰谷を補いますが、左右両方の曲泉陰谷に鍼を打つわけではありません。
必ず左右どちらか片側だけを使います。
これを片方刺しとします。
両方に鍼を打つと効果が半減します。

適応側の決定は、
①症状が左右どちらかに偏りがあれば症状のない側(健康側)、または少ない側を適応側とします。
例えば右膝が痛ければ左側を適応側として左の曲泉と陰谷を補います。

②症状の偏りがない、または左右に症状がまたがっている場合は、陰陽論に則り男は左側を女は右側を適応側とします。

本治法

治療すべき経絡、治療すべき経穴、適応側に従い、最も虚している経絡を補います。次にこの母にあたる経絡を補います。次に相剋経の実がどうなったかを診て実が治まっていれば次に移ります。実が残っていれば瀉します。
陰経を整えたら次に陽経に移ります。
全陽経を比較して邪の浮いてきた経をその脉状に応じて瀉します。
陽経の邪は症状のある経に出てくることがほとんどです。

例えば肝虚証であれば、曲泉を補う→検脉→陰谷を補う→検脉→相剋の肺経・脾経を診て実が治まっていれば次に移り、まだ実が残っていれば実している経を瀉す→検脉→陽経に浮いた邪を邪のある陽経を選経して瀉す→検脉→陰陽共に整って和緩を帯びたのを確認して終える。

マニュアル通りにいかずに、必ず一鍼毎に検脉して補法ならきちんと補えたかどうか?瀉法なら邪がとれたかどうか?目的が達成されたかどうかを確認します。まだ補いが足りなければもう一度補うべきですし、邪がまだ残っているようであれば取れるまで瀉法を加えます。

ただし、やり過ぎるとドーゼを過ごすので、基準としては最初の脉状よりも良い方向に変化したらそれを今日の限度とします。
気血の巡りが早い人はその場で症状が取れますが、気血の巡りが緩慢な人は時間の経過と共に症状が取れていくので、必ずしも即効性を得る必要はありません。
症状の軽減や消失を治療の効果判定の基準にするのではなく、脉状が好転したか?お腹の艶が良くなったか?顔色や声の清濁強弱に変化が見られるか?に重きを置きます。
これらが良くなっていれば、本治法の影響が及んでいる動かぬ証拠となりますので、必ず体は良くなります。
ですから本治法直後の症状の軽減や消失は、気血の巡りが機敏か緩慢かを知る上で参考程度に聞くに止め深追いはしません。
症状が取れているのが一番望ましいですが、むしろ経過が何より大事です。

本治法の目的は、人々がより良く生きれるように生気の不足を補い生気を妨害する邪気を退け生命力を鼓舞する本質治療です。
経絡治療を構成するもうひとつの概念標治法の目的は、人々がより良く生きれるように今ある症状を和らげる対症療法です。

毎授業後半に行っている今日の公開臨床では、咳が主訴の学生を肝虚肺実証で治療しましたので、最後に咳の病因病理を解説します。
咳は、肺の病症です。
肺に虚実が発生すると発症します。
進行すると、喘(呼吸困難)・哮(ヒューヒューゼイゼイ)へと発展します。
咳・喘・哮が複合的に合わさった病体が喘促です。
肺は呼吸を司ります。天空の清い気を体内に取り入れ体内の濁気を外へ排出します。取り入れた清気は体の深い所へと納められます。
なので肺には上から下に押し下げる働きがあり肺気のベクトルは降下を順とします。
下向きです。

自然界を見渡しても、夏に生い茂った葉が秋には枯れて落ち葉になります。
春から夏にかけて下から上への上昇の気のベクトルだったのが、秋になると上から下への下降の気のベクトルに変わります。
そうして冬支度に向かいます。

人体においては、上から下に気が流れることで気道が清潔に保たれ呼吸が深くなります。

ですが、何らかの原因によって肺気が下降できなくなると気が逆行してきます。
肺気逆などとされますがこれが咳です。

咳の病因病理

喘促に虚喘、実喘とありますが、圧倒的に実喘が多いように咳も邪気実によるものがほとんどです。

肺気は人体の右側を主戦場として下に降りるのを順としますが、一方では肝気が人体の左側を主戦場として上に昇っています。
この肝肺二臓の昇降運動によって気機のバランスを取っています。

肺気が降りれなくなった状態が咳ですが、降りれないのは肝気の突き上げが病的に亢進するからです。
ちなみに先の肺の臓腑図とこの肝の臓腑図似てなくないですか?
両方葉っぱで描かれています。
古代の中国人は光合成に代表されるように葉には何か重要な働きが秘められていることに気づいており、肺と肝にも葉と同じように大切な働きがあるとしたのでしょう。事実肺は気を臓し、肝は血を臓します。

話を戻して、
肉体や精神の疲弊から気滞を生じます。
気滞はやがて火化し邪熱の温床となります。
邪熱は肝陰肝血を焼き払い上昇拡散します。
五臓の最上には肺があります。
肝火は肺に飛び火します。
肺の津液が焼き払われ熱が停滞します。
肺燥・肺熱という病理状態に陥ります。
また津液が煮詰められると痰ができます。
そして咳が出ます。

あるいは腎陰・腎精を焼き払って最終的には肺に飛び火します。

咳(喘・哮)の治療

肺の邪熱を冷ますことと、肝陰または腎陰を補う必要があります。
肺熱だけ取ってもダメです。
元々の始まりが陰虚から起こっているからです。
陰には冷し潤し引き締める性質があります。
その陰気が不足すれば冷やせないので熱をもち、潤せないので乾燥して邪熱の温床となり、引き締められないので浮かび上がって上昇拡散します。
なので肝陰または腎陰を補って冷し潤し引き締めないと幾ら肺熱を冷ましてもキリがありません。
証としては、肝虚肺実証や腎陰虚が立ちます。
肝虚肺実証の場合は、肝腎を補い肺を瀉します。
肺経を切経して最も実所見のツボを使います。
経渠や列缺に反応が出ている人もあれば孔最から尺沢にかけて反応が出ている人もあります。
腎陰虚の場合は、腎肺を補いますが、腎の選穴に関わらず肺は魚際を用います。
痰があれば必ず胃経に邪が浮いてきます。
豊隆や条口に反応が出ます。
豊隆は除痰の特効穴でもあり、また豊隆は痰飲の痰を、条口は痰飲の飲をさばきます。
これが本治法です。

補助療法は、奇経治療が良く効きます。
列缺-照海の変法で孔最-照海を取ります。
孔最の取り方は教科書と違うので以下のリンクを参照してください。
喘促の場合は、呼気がしんどければ列缺-照海、吸気がしんどければ照海-列缺を取ります。発作時に重宝します。

肺疾の場合は、照海(患側)-列缺(健側)+陥谷(患側)-合谷(患側)を取ります。

大椎周囲の血絡からの刺絡も効果的です。

標治法は、大椎・風門に知熱灸なら7壮ずつ、無熱灸なら14壮ずつ、ドライヤー灸(セルフケア)なら7壮ずつ施灸します。

小結

咳・喘・哮は臨床的には、教科書にあるような腎不納気や肺気虚などの虚喘は少なく、圧倒的に心肺の邪気実による実喘が占めます。
肝虚肺実証や腎陰虚証あるいは脾が変動して痰ができ(脾は生痰の源)肺に貯まる(肺は貯痰の器)病理状態など。
実喘は症状が激しいので重症に見えますが気滞・邪熱・湿痰などの邪気実を的確に退ければ予後は良です。
虚喘は症状があまり酷くないように見えがちですが、重篤である場合が少なくなく、間質性肺炎の末期など中には命に関わるものもあるので十分に注意して治療に当たる必要があります。
腎不納気や肺気虚に進行すれば肺の実質の機能低下ですのであまりよい状態でないのは当然です。

全ての病に言えることですが、余分なものを取り除くことよりも足らずを補うことの方が治療が難しいということを認識しておくべきです。

また機会を設けて喘促についてもう少し詳しく解説を加えたいと思いますので、今回はこの程度に止めておきます。
臨床家の先生方には物足りないかもしれませんがご容赦ください。

だいぶと長くなりましたが、今回で診察診断~証決定~治療すべき選経・選穴・適応側まで導くところまで来ました。
僅か4回で凄いです。
みなさんの素直さと吸収力には驚かされるばかりです。
来週はいよいよ伝統鍼灸術の最高峰に位置する究極奥義「補法の基本刺鍼」を伝授します。
僕が一人一人にやって見せますので、みんなは僕にやって見せてください。
予習しといてね(*^^*)

ONE

鍼灸にはあらゆる流派や様式が在ります。 この多様性が日本鍼灸の優秀性のひとつだと感じています。 各流派に優劣は在りません。 それぞれに素晴らしい学術があり、互いに切磋琢磨する間柄です。 流派は違えど、患者を病苦から救うという同じ使命を持った鍼灸師に違いはありません。 元々1つです。 互いを認め高めあい、上工に成れるように、願いを込めてこの名前を付けました。 どうぞ、よろしくお願いします。