経絡治療からみた急性腰痛(ギックリ腰)の治療と病因病理

症例
☑患者 60歳代女性。
☑主訴 急性腰痛(ギックリ腰)。
☑現病歴 今朝起きた時から痛い。右の腰臀部に限局している。
☑理学検査 
①ラセーグ左足に比べて右足が挙がらない。その差10㎝。
②後屈と側屈と回旋で痛みが増悪。
☑脉状診 浮、数、実。 
☑比較脉診 肝腎虚、肺脾実、心平。
☑経絡腹診 肝腎虚、肺脾実、心平。
☑奇経腹診 陽維脉と陰蹻脉に反応が出ているので、右外関-右臨泣と左照海-右列缺に奇経テスターを貼付して制限のある動作をしてもらうと後屈と側屈と回旋時の痛みが軽減する。
ここでは確認だけで治療はしない。
☑証決定 肝虚証。
☑適応側 天枢診にて左。患者の脉を診ながら空いている手の労宮を左右の天枢に当てまたは翳し脉状が良くなる方を適応側とする。
誤診を防ぐため患部の変化も診ると的中率が上がる。
例えば本症例では主訴が腰痛なので腰の硬さを捉えて天枢を触って弛む方が正しい。
変化が分からなければ、基本通り男は左女は右、病症に偏りがあれば健康側を取る。
☑本治法 左中封、左復溜に補法。右上巨虚に弦実に応ずる瀉法。(※マニュアル通りにやるのではなく一鍼毎に検脉しながら必要な経絡に鍼を入れる)
☑効果判定 右足が挙がるようになりラセーグ左右差がなくなる。
後屈と側屈と回旋時の痛みも軽減するがまだもう少し残るというので、
☑標治法 
①右脊中と腰陽関に深瀉浅補。
→効果判定 後屈がさらに楽になる。
②右股関節横紋外端の反応に深瀉浅補。
→効果判定 側屈と回旋がさらに楽になる。
☑セルフケア 仕事の都合で1週間後しか来れないとのことなので、治療前に症状が軽減するのを確認しておいた奇経に自宅で金銀粒を貼るように指示して治療を終える。

ギックリ腰の病因病理
結果として仙腸関節の亜脱臼です。
なぜここが亜脱臼するのかが問題です。
その病因はストレスです。
専門的には七情の乱れです。
特に「怒」が関係します。
怒は肝を傷ります。
肝は筋(筋膜・靭帯・腱)を主るので、変動すると筋がやられます。
また、仙腸関節には沢田流小腸兪があります。
肝が変動すると子午陰陽関係にある小腸に影響し、小腸の兪穴である小腸兪が脆弱します。
肝が旺気する起床時や何かのきっかけで仙腸関節が亜脱臼します。
肝風内動で小腸兪が動揺したとも言えます。

また経絡治療では、陰経を整脉力豊かに補えると体内に潜んでいた邪が所定の経絡に浮いてきます。
多くは主訴に関連する陽経に浮いてきてこれを脉状と触覚所見を捉えて的確に処置すれば症状がスッキリと取れますが、通常腰痛の場合であれば、膀胱経や胆経に浮いてきそうなものですが本症例では胃経に出ています。
飽食の時代の特徴です。
脾胃に負担がかかっていて、出るべき経に邪が出ないことが多いです。
これも肝鬱があるために食べ過ぎるのです。
食べることでストレスを発散しています。
脾胃の変動が多いわけです。
特に脾実は湿痰を形成し癌などに発展していくので見過ごしては行けません。
治療
  • 本治法
病を治するには必ず本を求むとあるように、病因病理を解決することが本質治療です。
経絡治療では本治法とします。

肝鬱気滞によって生じた肝火が、
  1. 肝陰肝血を焼灼したら肝虚証。
  2. 腎精を焼灼したら腎虚証か75難型肺虚肝実証。
  3. 肺を衝いたら69難型肺虚肝実証。
  4. 同じ中焦にある脾に横逆したら脾虚肝実証。
  5. 心血を焼灼したら心虚証。
証に従い五臓を原とする主たる変動経絡の虚実を弁え補瀉調整し生命力を強化します。
  • 補助療法
奇経治療がよく効きます。
原則として病症を勘案して奇経腹診で診察診断しますが、経験的に、
  1. 前屈、側屈、回旋で痛むのは陽維脉
  2. 後屈で痛むのは陰蹻脉。
  3. 動作痛なく腰下肢が痛むものには督脉と帯脉が的中することが多いです。
また、治療はもちろん、患者さんのセルフケアに使えます。
  1. 都合がつかない。
  2. 遠方である。
  3. 経済的理由。
などの事情により頻繁に治療に通えない方にはツボを卸して自宅で奇経治療をしてもらいます。
わけも分かってないのに有名穴を指導するより、きちんと診察診断して、効果を確認した上で指示した方がよっぽど親切です。
宮脇奇経治療の即効性と再現性がそれを可能にします。

また僕もそうだったように、初学者を助けてくれます。
駆け出しの頃は一本の鍼の影響力が乏しく本治法で効かすことができませんでした。
かといって患者さんは僕が上手くなるまで待ってくれません。
それでも効果を出さなければならなかったのです。
それを助けてくれたのが宮脇奇経でした。
あの頃の僕の不味い本治法でも、奇経のお陰で何とか来てくれた患者さんを楽にして返すことができました。

今でももちろん使います。
本題からは外れますが、特に癌などの器質的変性をきたした疾患には必ず用います。
今まで効果を確認できたのが、
  1. 虫垂がん 照海-列缺+陥谷-合谷
  2. 肺がん 照海-列缺+陥谷-合谷。
  3. 膵臓がん 内関-公孫+外関。
  4. 肝胆がん 通里-太衝か太衝-通里か内関-公孫に左腕骨を加える。
  5. 腎がん 照海-列缺+陥谷-合谷。
  6. 胃がん 内関-公孫+列缺-照海。
  7. 食道がん 内関-公孫+列缺-照海。
  8. 子宮がん 太衝-通里か公孫-内関+照海-列缺。
  9. 卵巣がん 太衝-通里か陥谷-合谷+照海-列缺。
  10. 脳腫瘍 後谿-申脈+照海-列缺で嚥下傷害が出たら舌診して舌歪する側の内関-公孫か公孫-内関を加える。
  11. 乳がん 照海-列缺+陥谷-合谷。
※忘れてるのもあります。
  • 標治法
  1. 前屈、側屈、回旋痛は患側の股関節横紋の外端(環跳の移動穴)の反応に刺鍼。圧痛硬結がありますが、押さえて痛いということは中が実です。相対的に表面は虚になっています。これを外虚内実とします。表面の虚を補うと中の実が中和され弛みます。陰陽論です。これで取れなければ中の実を瀉します。硬結の頭まで鍼を進めてたら、何もせずに硬結が弛みのを待ちます。硬結が弛みだしたら鍼先がスッと進むのでこれを度として抜き上げ皮膚を離れ間際に鍼口を塞ぎます。中の実を瀉し表面の虚を補うので深瀉浅補とします。
  2. 後屈痛は脊中+腰陽関か上仙の圧痛の強い方に刺鍼します。やはり外虚内実になっているので、先ず表面の虚を補うか、取れなければ深瀉浅補を用います。脊中は左腰が痛ければ左脊際、右腰が痛ければ右脊際に取ります。
標治法はいわゆる局所治療、対症療法で
即効性がありますが、その効果と持続性は本治法の足元にも及びません。
それでも患部の虚実を弁えて補瀉調整すると、その場では患者さんを楽にして帰すことができます。
僕も駆け出しの頃は標治法ばっかりでした。
お陰でレパートリーは沢山あります。

初学者の方は早く標治法祭りを卒業できるように、来る日も来る日も鍼の練習に明け暮れて、一本の鍼の影響力を高め、本治法で体を変化させることができるように腕を磨いてください。
患者の気血を思いのままにに動かせるようになると臨床がもっと楽に楽しくなります。

鍼灸師の鍼灸師による鍼灸師のためのOWND ONE

鍼灸にはあらゆる流派や様式が在ります。 この多様性が日本鍼灸の優秀性のひとつだと感じています。 各流派に優劣は在りません。 それぞれに素晴らしい学術があり、互いに切磋琢磨する間柄です。 流派は違えど、患者を病苦から救うという同じ使命を持った鍼灸師に違いはありません。 元々1つです。 互いを認め高めあい、上工に成れるように、願いを込めてこの名前を付けました。 どうぞ、よろしくお願いします。