経絡治療からみた外感病の治療と病因病理

外感病とは、気候変動が体に影響して発病する急性熱病や、インフルエンザウイルス、溶連菌、ヘルペスウイルスなどに感染することによって発病する病気の総称です。
また、秋冬の乾燥する季節に悪化するアトピーや喘息、冷えて筋肉が硬くなり発症するぎっくり腰なども狭義の外感病と言えます。
病気というのは、この外感病と雑病に大別されます。
雑病とは外感病以外の病全般です。
肩こり、腰痛、膝痛、内臓疾患、精神疾患など。
外感病は更に、傷寒(しょうかん)と温病(うんびょう)の別があります。
傷寒とは文字通り寒邪によって発病する外感病で、温病も文字通り温熱の邪気によって発病する外感病です。
寒邪と湿邪は陰邪ですから地の部である足元から侵入して来ます。だから足が冷えます。
風邪と暑邪と火邪と燥邪は陽邪ですから天の部である上半身から侵入して来ます。

傷寒は、風邪と寒邪がくっついた風寒の邪気として、項から侵入して来ます。
温病は風邪と火(熱)邪がくっついた風熱の邪気として、口鼻から侵入して来ます。

気候変動(外因、風暑湿燥寒火)が、発病の原因になると考えるのが東洋医学の独自性ですが、寒邪による傷寒にしろ、温熱の邪気による温病にしろ、これらはあくまで“客”であり、首謀者は“風邪”です。
ただし、外から吹き付ける風ではありません。
体内で発生した風です。
これを内風とします。
風邪は毛穴(腠理そうり)を開くという特徴があります。
内風が発生すると、体の内側から風穴を空けます。
そうして各季節(四時)の邪気を招き入れます。
寒凉の時期なら寒邪や燥邪を、温暖の時期なら暑邪や火邪を招き入れます。
どこからともなく吹く隙間風をイメージしてください。
正に風邪は万病の因です。
ではこの内風はどこからやってきたのでしょう?
大宇宙である自然界における異常な風の代名詞と言えば台風やハリケーンですが、台風は高気圧と低気圧の乱高下によって発生します。
小宇宙である人体においては、“落差”によって病的な風、風邪が生じると、奈良の上雅也先生は仰っておられます。

“落差”

○○の落差が激しいなどに使われる言葉ですが、人体における落差とは感情の起伏や気の緩みなどです。
激しく怒った後や、仕事やテスト勉強が一区切りついてホッとした時などに、平時との落差が生まれます
緊張の緩和の落差です。
自然界における高気圧と低気圧の乱高下の落差によって台風が発生するように、平時からの落差、緊張の緩和による落差によって風邪を生じます。
体内で発生した風邪ですのでこれを内風とします。
内風が、内側から隙間風を通す風穴を空け、腠理を開き、四時の邪気を招き入れます。

今のような寒凉の季節なら、寒邪を招き入れ、傷寒を発病させます。
春夏の温暖の季節なら、温熱の邪気を招き入れ、温病を発病させます。
暑気中りによる熱中症も温病に包括されます。
落差とは七情の乱れですから、肝鬱つまりストレスとも言えます。
精神状態の不安定さによって、落差が生まれ、肝風内動し、気候変動を受けやすい下地をこさえるから、外感病を発病するのです。
正に内傷なければ外邪入らずであり、ストレスこそが最強の外邪です。
受験生にインフルエンザが多いのもこれで考えれば納得です。

インフルエンザなどの感染症にかからないためには、各種予防接種も大事です。
温活も大事です。
うがい手荒いも大事です。
もっと大事なことは精神を安定させて落差を作らないことが何よりの予防になります。
これは熱中症でも同じことが言えます。
真の熱中症対策は落差を作らないことです。
落差によって生じた内風に風穴を空けられるから暑邪の侵入を許すのです。
このような下地をこさえていれば、幾ら水分補給や塩分補給をしっかりしていても熱中症になります。

外感病の予防は、精神を安定させること、つまり内傷を作らないことです。
一喜一憂しない。
気を緩めすぎない。
ある程度の緊張感は常に必要だということです。

子供が流行り病にかかりやすいのは、好奇心と不安の落差が大きいからです。
外感病の経絡治療
カゼをひいたり、インフルエンザになった場合は、医療機関に行くのが当たり前になっていますが、鍼灸を併用した方が経過がいいです。
患者さんとの信頼関係があれば、医療機関を経ずに鍼灸院に来るケースもあります。
厳密には、弁証のモノサシ(六経弁証、衛気営血弁証)や施治(散寒、清熱、凉血)が違うので傷寒か温病に分けるべきですが、経絡治療では、傷寒も温病も更には雑病も同じ土俵で勝負出来ます。

内傷である生気の不足を補います。
整脉力豊かに陰経から補えると、邪気が侵入している相剋経や陽経に邪気実となって姿を現してきます。
現れた脉状に応じて各論的に瀉法をし、邪気を除きます。
これを本治法とします。
本治法だけでなく、病体に応じた補助療法や標治法を施し早期回復に努めます。 

外感病の臨床
  • 急性発熱
発熱時は大人も子供も肺虚証ではやらない方がいいです。
肺経は気を巡らし温める作用があるので余計に発熱します。
麻黄湯や葛根湯や桂枝湯のように表寒や中風を発散できるほど温めて発汗させられればいいのですが、肺経を補って太陽経か陽明経を瀉して上手くいった試しがありません。
恥をさらしますが、駆け出しの頃は幼かった長男の急性発熱を全く治せませんでした。
治せないどころか余計に発熱させて高熱で意識が朦朧として譫言を発する中、夜間の救急に走ったこともありました。
小児の場合は首が短いので発散しにくく、頭が近いために停滞した邪熱が頭脳に昇りやすいのです。
この時、生気が邪気に負けると脳症を発症する危険があります。
なので、特に小児の発熱している急性疾患に対して肺経を補うのは慎重になるべきです。

僕は柳下登志夫先生の教えを参考に、小児のかぜや気管支炎など、熱の出る急性疾患で、悪寒、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、咳などがあるけれど、汗は出ないという状態のいわゆる太陽傷寒証に対しては、陰中の太陰である腎を補って気を下げます。
発熱児は頭は熱いけど足が冷たい子が多いので、超逆気症状と診るわけです。
この時足も熱ければ病はまだまだ登り坂ですので余談を許しません。
もし足の温度に左右差があれば温い側の金門を瀉します。
あるいは足に左右差がなく、手に左右差があれば、二間か三間か合谷、または胃経上のツボを瀉します。
手足に左右差がなければ、復溜など腎1穴だけ補って、両手に水掻きの鍼をします。
水掻きの部は、身熱を主治する滎穴が位置するので、瀉的に運鍼することで解熱に働きます。
後は気を巡らすように全身に小児はりをして、最後に非適応側の後谿にチョンと止め鍼をして終えます。
止め鍼はドーゼの多少を丁度いい塩梅に整えてくれます。
発熱している時は後谿、疳虫などの雑病は合谷、先天性疾患は陽池を使います。
このような方法で我が子を治せるようになり、治療室に来てくれる発熱児を救えるようになりました。
咳が主症状であれば、肺の変動ですがほとんどが肺実です。
正確には肺陰虚による肺熱、肺燥です。
本治法は、左の肝虚右の肺実証の相剋調整で治療することが多いです。
肺実は魚際を補って肺陰を潤して清熱します。
麦門冬湯証の応用です。
魚際を補っても肺実が取れなければ肺経上を切経して最も邪の客している箇所から瀉します。
胃経に邪が浮いてくることが多いですが、豊隆を邪して去痰するとよいでしょう。
補助療法は、任脉の変法で孔最-照海。
標治法は、大椎、風門の知熱灸。
肺経、大腸経上の圧痛に知熱灸。
で鎮咳去痰作用があります。
  • 咽喉痛/クループ
咽喉痛は腎虚か肝虚が多いです。
補助療法は、子午治療。
咽喉は小腸経か大腸経ですので、痛む側と反対側の蠡溝か大鐘。
左右どちらの咽喉が痛いか判別しない場合は人迎の圧痛の強い側を患側とし、健側の蠡溝か大鐘を使います。
奇経は照海-列缺+陥谷-合谷。
標治法は、分界項線のコリを取る。
  • ヘルペス
ヘルペスは、脾胃湿熱か肝胆湿熱です。
肝虚脾実か腎虚脾実、脾虚肝実か69難型肺虚肝実か75難型肺虚肝実で本治法します。
補助療法は、患部の流注を考慮した奇経を取る。帯状疱疹なら陽維脉か帯脉など。
標治法は、ボスキャラの水疱に直接知熱灸がよく効きます。
症例
☑患者 娘。
☑主訴 インフルエンザによる発熱、しんどい。
☑脉状診 浮、数、実。
☑比較脉診 腎肺虚、脾心実、肝平。
☑経絡腹芯 腎肺虚、脾心実、肝平。
☑証決定 腎虚証。
☑適応側 右。
☑本治法 てい鍼で右復溜に補法。
☑標治法 左手から右手の順に水掻きの鍼。気を巡らすように全身に小児はり。左後谿にチョンと止め鍼。
☑経過 直後4回嘔吐(汗吐下の吐に作用)してすっかり元気になる。解熱。3日間治療して治癒。
症例②
☑患者 筆者。
☑主訴 咳、咽喉痛。
☑脉状診 浮、数、虚。
☑比較脉診 肝腎虚、肺脾実、心平。
☑経絡腹芯 肝腎虚、肺脾実、心平。
☑証決定 肝虚肺実証。
☑適応側 左。
☑本治法 左曲泉、左陰谷に補法。右魚際に輸瀉。
☑補助療法
✅奇経治療
右孔最-左照海に金銀粒貼付してその上から知熱灸5壮-3壮。
✅子午治療
肝-小腸で人迎を押さえて圧痛の強い側と反対側の蠡溝に知熱灸5壮。 
☑標治法 肺経~大腸経上の圧痛硬結に圧痛が取れるまで適宜知熱灸。
☑経過 一週間毎日治療して治癒。

鍼灸師の鍼灸師による鍼灸師のためのOWND ONE

鍼灸にはあらゆる流派や様式が在ります。 この多様性が日本鍼灸の優秀性のひとつだと感じています。 各流派に優劣は在りません。 それぞれに素晴らしい学術があり、互いに切磋琢磨する間柄です。 流派は違えど、患者を病苦から救うという同じ使命を持った鍼灸師に違いはありません。 元々1つです。 互いを認め高めあい、上工に成れるように、願いを込めてこの名前を付けました。 どうぞ、よろしくお願いします。